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4.国民皆保険制度のしくみと国民皆保険制度崩壊の危機

平成11年7月2日 記 浜脇 弘暉

 医師の本音を書きましたが、いろいろ問題も多く文章が長くなりました 。
以下に目次をご案内しますので、お時間の許す際に、お目通しいただければ幸いです。

医療保険制度と官僚統制
マスコミの言う不正請求について
薬価差益、日本の薬剤費について
日本の医療費は高いのでしょうか
医療保険制度の簡単な流れ
国民皆保険制度の崩壊の危機

●参考にさせていただいた著書・他
1、鈴木 厚 著「日本の医療を問いなおす」−医師からの提言  ちくま新書175(本体価格660 円+税)
   著者は川崎市立川崎病院内科医長で、現場の医師の本音が書かれており 、同感する部分が大でした。医師にも国民にもぜひ読んでいただきたい本です。一部ご参考にさせていただいたことをお礼申し上げ、ご紹介させていただきました。
2、池上直己・J.C キャンベル著「日本の医療」統制とバランス感覚、中央新書1314
3、仁木 立 著「日本の医療」国際比較の視覚から、医学書院(定価3,708 円)
4、高知県医師会史(平成10年10月発行)
5、日医雑誌、日医ニュース、日医ファックスニュース、厚生白書、他。

医療保険制度と官僚統制

  昭和36年から開始された国民皆保険制度は、保険証1枚で、「誰でも」、「いつでも」、「どこでも」、「必要な時に」、医療機関で診療が受けられる制度で、国民にとっては、まさに理想的なシステムと言えます。
 そして、先進国で最も安い技術料・ 医療費で、世界一の実績と恩恵を国民にもたらし、今や、世界一の長寿を達成し、医療の水準を表す周産期死亡率(妊娠22週から生後1週未満の赤ちゃんの死亡率)も乳児死亡率(1才未満の赤ちゃんの死亡率)も世界一の低さを誇っています。

 しかし、日本の医療制度は、全てが厚生官僚の作った政策で支配されており、資本主義・自由経済社会であるはずの日本で、官僚の絶対的な統制を受けているのは、医療以外にはなく、医療のみが唯一、国家統制、社会主義的形態で行われています。
 診察・検査や薬、処置や手術の値段、入院費用などは全て全国同一料金に固定され、患者さんの自己負担の割合や毎月支払う保険料、病院の人員配置、医薬品や医療機器の認可、病室の広さから廊下の幅など、医療に関する何もかもが、全て国・官僚が決めた規則で統制されています。

 全ての点数を決めた700 頁に及ぶ診療報酬点数表と厚生省通知の名のもとで行われる数多くの規制があります。厚生省の定めた2千頁にも及ぶ医科点数表の解釈の中にも疑義解釈という名の規則があり、現実の多忙な診療の場でこれら数千に及ぶ規則で、医師達はがんじがらめにされているのが実情です。

  現在、診察の初診料は2700円、再診料は740 円ですが、他の諸物価を考えると病気の診断技術料の初診料・再診料の安さに驚かれるのではないでしょうか。

 このような統制された制度下で、民間の医療機関は、自己資金と借金で、病院や診療所を建て、医療設備を整え、従業員を雇い、患者さんの診療を行います。
 そして、毎月の患者さんに行った診察や検査や処置や手術や薬や給食を含めた入院などの全ての診療行為を、全国統一された診療報酬点数をもとに1枚のレセプトという請求用紙に1か月分をまとめて記載し、支払基金や国保連合会へ請求し、審査を受け、請求が認められた行為分の報酬が2か月後に支払われます。これが出来高払いというシステムです。

 医療機関は、この支払われた診療報酬で、借金を払い、人件費・法定福利費・福利厚生費・保険料、薬品・医療材料・検査材料などの購入の支払い、税金などの公課、建物や機械の修理費、家族の生活費などを賄うわけで、従業員・家族・医師の生活の全てが、厚生省の政策に握られているわけです。

診療報酬点数は、医師の経験年数や診断や手術の上手下手などに無関係に一律ですので、制度を取り入れるに当たっては、国家統制であることも含めて、当初、先輩医師たちは反対しました。
 しかし、全ての国民に公平で平等な医療を提供するという「国民皆保険制度」の理念を前に、先輩医師たちはこれを受け入れました。そして今日まで努力をされてきた結果、今日の世界に冠たる医療を完成させたともいえましょう。

マスコミの言う不正請求について

 医療機関が請求した全てが支払われるわけではなく、審査を受ける過程で、「査定」という仕組みがあります。査定は、都道府県による違いもあれば、昨年は良くても今年はだめというように、一律一定ではなく、純粋な学問的な裏付けがあるわけではありません。
  要するに、療養担当規則という名の、こと細かに規制された無数の指示に違反しているという理由で、簡単に請求が削られます。既に患者さんに使用した薬・検査・処置などあらゆる部分で削られ、認められなかった部分は、全て医療機関の持ち出しになり、適正医療の名で行われる「査定」は、医療機関にとってはイジメというイメージしかありません。

 再審査請求というシステムがありますが、手続きが面倒で、多忙な医療機関は泣き寝入りする場合が多いようです。一方、支払側の保険者からは、再審査請求をこれでもかという量で出してきて、高知県では約半数が医療機関への減額とされる状況で、厚生省は更なる審査強化で、医療機関・医師への締めつけを行い、医療費削減を図っています。

 このような支払い拒否は、全支払い額の1〜3%と言われ、中には10%を超える病院もある一方、ゼロの病院はありません。 県立病院や国立・市立病院でも大学病院でも査定を受けます。

 例えば、健康保険本人の患者さんの治療費が1万円として、患者さんの負担分2千円を差し引いた8千円を請求するわけですが、支払側が「検査や薬が規定より多いので7千円しか払いません」と、一方的に通告してくるのが査定です。病院にとっては、使ったものを踏み倒された被害額で、支払い拒否分を病院が全額負担する訳ですから、経営上大問題です。

 朝日新聞は平成9年8月に2千億円の医療費過剰請求、医療費高騰の主因が医療機関による不正・過剰請求にあるような報道をしました。
  この2千億円は、支払い側の保険組合が過剰診療と考える部分であっても、医療機関側としては医療行為に対する当然の報酬を踏み倒された被害額に当たります。
 日本医師会の抗議に朝日新聞は謝罪しましたが、この不正請求という言葉は、いまだに一人歩きしています。

 医師といえども人間ですので、どこの業界にも見られるように、この医師「性善説」に基づく出来高払い制度を悪用するものの存在は否定できません。日本医師会や高知県医師会も、架空請求や水増し請求、施設基準に違反している請求など、真の不正請求には会員の指導を含め、組織を挙げて対処しています。

 10年5月、衆院国民福祉委員会での参考人意見聴取で、全国社会保険診療報酬支払基金労働組合がまとめた支払基金の査定額に関する試算では、平成7年度の査定額は1877億円、そのうち、資格関係の違いによる返却分が72.9%と最も多く、点数上の解釈の違いを含む返却分が19%、計算違いなど事務処理関連分が8.8 %であると明らかにされました。
 すなわち、会社を退職して資格が喪失した保険証で診療が行われたものなど資格関係の違いが最多で、これらは全て医療機関の責任ではないものです。患者の状態の急変から検査や投薬を増やさざるを得なくなった場合も過剰請求とされ、療養担当規則の解釈の違いも、計算や事務ミスも、ひっくるめて不正請求とされているのが実態です。
 真の実態はマスコミが報道するような医師の性悪説から来る査定が主因ではなかったのです。

 国民の健康を守る医師側の理念と、医療財政を守るとの名目を振りかざす支払い側の理由との対立が続いているのです。

  制限診療で縛られているとは言っても、医学的に必要な検査や治療が抜けて、万一、患者さんに被害が起これば、医師は非難され、場合によっては訴えられ、賠償金を請求されます。更に、裁判では、保険で認められていないから検査や治療しなかったという理由は通りません。

 担当医師とレセプト1枚の書類審査のどちらが患者の病態をよく知り、実態に則した判断ができるかを考えていただきたいのです。
 たった1枚のレセプトに、患者さんの病態の全ての実情や医師が昼夜を徹して行った診療の実情、肉体的・精神的苦労は表現され得ません。
 規則一点ばりの制限診療が強要されている医療現場で、患者中心の行き届いた十分な医療を遂行するために、多くの医師達は日夜腐心していることを、ぜひ、ご理解していただきたいと思います。

 食事や寝る時間も犠牲にして頑張っておられる「かかりつけ医」は、きっと皆さんの回りに大勢おられるはずです。
 日本医師会の広報活動の一つに一般の方々から毎年募集して表彰する「心に残る医療」(主催=日本医師会・読売新聞社)があり、応募作品には医師への感謝を込めた文章があふれています。

  ★「心に残る医療」  http://www.med.or.jp/people/kokoro/

 マスコミによる一方的な報道、厚生省に都合のよい情報がリークされ、医療機関が行政から財政的・心理的に圧迫を受けている状況は、国民には知らされず、また理解されずにいます。

薬価差益、日本の薬剤費について

 日本の医師の技術料はアメリカの医師のおよそ2割、医療費の中の医師の取り分が不当に低いのが、日本の医療費の特長です。

マスコミは医療機関や医師が儲かっているかのような報道・宣伝をしますが、病院が儲かっていたのは、昭和40年から50年頃の話で、昭和56年以降の厚生省の医療費抑制策で、厳しい冬の時代がずっと続いています。

  最近は、銀行も倒産を恐れ、医療機関へほとんど貸してくれません。

  新しくなるのは、公的医療機関だけで、大部分の民間医療機関は古い粗末な建物のまま、改築する余裕がないのです。民間医療機関へ公的医療機関と同じ補助金を出すと年間5兆円の財源が必要と言います。

 ちょうどバブル崩壊が始まりかけた平成2年の20兆円強の国民医療費のうち、人件費51.38%(そのうち医師には15.82%)、医薬品22.98%、材料費7.35%、その他18.29%で、医師には15〜16%しか入らず、医薬品と材料費が30%を占めています。

  平成5年のデーターでも、国民医療費24兆4000億円のうち、人件費49.6%、医薬品20.5%、医療材料費5.9%、委託費4.5%、経費・その他19.5%となっています。

  日本の医療費のほとんどは、病院を素通りして医療周辺産業(製薬会社や医療機器会社、医療材料会社、検査会社)へ流れて行くのです。
 医療材料費も同様で、心臓のペースメーカーの値段は、日本では160 万円、アメリカが60万円、イギリスが30万円、ドイツ・フランスで40万円となっています。

医療機器の販売価格の国際比較(1995年)        (単位千円)
 ペースメーカPTCDカテーテル冠動脈ステント人工肺眼内レンズ
日本160025735021955
アメリカ6007120014314
イギリス3006010010
ドイツ4006010018517
フランス4004030079
(注)日本以外の国については購買力平価による換算
(出所)医療経済研究機構



 薬価や医療材料の問題で改革が求められるのは、高い薬価や材料費が問題で、かつ流通機構の問題があるわけです。

日本の医療費は高いのでしょうか

 日本の医師の技術料はアメリカの医師のおよそ2割、医療費の中の医師の取り分が不当に低いのが、日本の医療費の特長です。
 マスコミは医療機関や医師が儲かっているかのような報道・宣伝をしますが、病院が儲かっていたのは、昭和40年から50年頃の話で、昭和56年以降の厚生省の医療費抑制策で、厳しい冬の時代がずっと続いています。最近は、銀行も倒産を恐れ、医療機関へほとんどお金を貸してくれません。
 新しくなるのは、公的医療機関だけで、大部分の民間医療機関は古い粗末な建物のまま、改築する余裕がないのです。民間医療機関へ公的医療機関と同じ補助金を出すと年間5兆円の財源が必要と言います。
 ちょうどバブル崩壊が始まりかけた平成2年の20兆円強の国民医療費のうち、人件費51.38%(そのうち医師には15.82%)、医薬品22.98%、材料費7.35%、その他18.29%で、医師には15〜16%しか入らず、医薬品と材料費が30%を占めています。
 平成5年のデーターでも、国民医療費24兆4000億円のうち、人件費49.6%、医薬品20.5%、医療材料費5.9%、委託費4.5%、経費・その他19.5%となっています。
 日本の医療費のほとんどは、病院を素通りして医療周辺産業(製薬会社や医療機器会社、医療材料会社、検査会社)へ流れて行くのです。

医療費の増大で医療機関が儲けているかのような報道がありますが、実際はまったく逆で、例えば昭和55年と63年を比較すると、消費者物価は30.2%、人件費は43.2%の上昇に比べ、診療報酬は4.7 %の上昇と、約10分の1のアップに過ぎず、その後も診療報酬は消費者物価や人件費レベルに追いつくどころか、益々その差は増大しています。いかに低く抑えられて来たかが理解できる思います。
 人事院の勧告通りの国立・官公立病院並みの人件費を出していれば、民間病院なら即倒産の状況に追い込まれます。行政から何の補助も出ないからです。

 長期の医療費抑制策のため、良心的な医療機関は赤字に苦しみ、人件費アップに追いつけず、十分な看護婦雇用や看護婦さんへの十分な給与支払いもできず、結果的にサービス向上などに支障をきたすなど無理を余儀なくされ、看護婦などの医療関係者は、過酷な労働環境で重労働を強いられています。

 日本の公的病院の全てが赤字、私的病院の7割が赤字経営になっています。国立大付属病院の赤字を埋めるため、毎年約1500億円が一般会計から国立学校特別会計に繰入られると言います。国公立病院への補助・負担金は少なく見積もっても1兆円は超えると言われています。

 例えば、高知県の県立病院の累積赤字は10年度末で175億2千万円の見込みと言います。県立病院では、赤字や退職金は一般会計から補助され、設備投資でも3分の2を県が負担しますので、倒産してもおかしくない状況でも存続が可能です。

 民間医療機関では、そのような補助はありませんので、自己の努力で解決できなければ、そく倒産に追い込まれます。
 最高の医療を行い、患者さんであふれている県立病院がこれ程の赤字であることは、患者さんのための人材を必要とするために人件費が高くなることも原因の1つではありますが、国の医療費抑制策が最大の原因であることは医療関係者が全て周知している事実であります。

 近年、官僚の腐敗が次々に明らかになるにつれ、国民はやっと根底の問題点に気づいています。
 厚生省は、薬害エイズなどで情報を隠す一方で、医療情報を操り、医療費増大という不安を国民に煽り、医療費増大の責任を医療機関に押しつけ、医療機関や国民に犠牲を強いる政策を次々に行おうとしています。
 この医療にかかる国庫負担・税金が、多いか少ないかは、大蔵省や厚生省の官僚が、単に財政面からのみ決めることではなく、国民の健康を守る政策は、国と国民で考えるべき重大事ではないでしょうか。医療や福祉に正しい理念を持つ政治家の出現が望まれます。

◆医療費の先進国との比較

 厚生省による実際の医療費の国際比較は小さくしか公開されず、国民の目に触れにくくなっています。

 1990年(平成2年)OEDC(経済協力開発機構)・先進27か国の医療費の比較は、右の図のようになります。
国 民 医 療 費 の 国 際 比 較
OECD諸国の医療費の状況  (1995)
医療費の対GDP比1人当たりの医療費
順位比 率 (%)順位金額(円)
ア メ リ カ14.2342,900
ド イ ツ10.4290,675
フ ラ ン ス9.9246,166
ス イ ス9.8396,161
カ ナ ダ 9.715174,744
オ ラ ン ダ8.8210,031
オ ー ス ト リ ア8.616163,828
ア イ ス ラ ン ド8.210200,527
ノ ル ウ ェ ー8.0253,223
ベ ル ギ ー108.011200,057
テ ェ コ117.92534,441
オ ー ス ト ラ リ ア127.9214,642
イ タ リ ア137.717138,327
フ ィ ン ラ ン ド147.714177,661
ス ペ イ ン157.621101,534
日 本167.2277,783
ス ウ ェ ー デ ン177.213178,978
ニュージーラ ンド187.119112,450
ハ ン ガ リ ー197.12628,795
ルクセンブルグ207.0280,230
イ ギ リ ス216.918124,683
デ ン マ ー ク226.412198,363
ア イ ル ラ ン ド236.420109,156
ポ ル ト ガ ル245.82279,326
韓 国255.32450,344
ギ リ シ ャ265.22359,471
メ キ シ コ274.92714,491
(注)GDPとは、「国内総生産」のことであり、GNP(国民総生産)と異なり、国内企業の海外での生産分を控除している。



すなわち、国民1人当たりの医療費は、アメリカが2566ドル、ドイツが1486ドルに対し、日本は1171ドルに過ぎず、国民総生産で比較すると、アメリカの医療費は国民総生産の12.1%、ドイツは8.1 %に対して、日本は6.5 %と非常に低く、1995年資料でも先進国のうちで16番目になります。現在では先進国で22番目とも言われています。平成2年より円安が進んでいるので、現在の医療費は更に低いレベルにあると予測されます。

国民所得に対する社会保障給付費でも、図のように先進国でも最低レベルにあります。

公共投資と福祉・保健支出の対GDP(国際総生産)比(単位:%)
日 本アメリカイギリス西ドイツフランス
公共投資7.91.72.12.33.4
福祉保健1.11.57.57.84.5

医療経済研究機構の調査では、国民総医療費の対GDP比では、アメリカ13.6%、日本5.4%、国内総医療支出(TDHE)の概念を用いた比較でも、対GDP 比で、1996年アメリカ13.6%、日本1994年6.4%と、日本の医療に対する支出がアメリカの半分の水準であり、対ドイツ比でも2/3程度のレベルです。

  一方で、国民1人当りのGNPは、イギリスの2倍、台湾の3倍程度、ア メリカの1.5倍程度もあり、大ざっぱな言い方をすれば、国民の負担感や医療人の報われ具合は、同じ100 ドルのサービスについて言うと、日本人にとっては、イギリス人の2分の1、台湾人の3分の1、アメリカ・ドイツ・フランス・シンガポール人の3分の2程度ということになります。

 具体的な診療の場合の医療費の比較の図を示しますが、いかに日本の医療費、技術料が安いかが理解できると思います。        

医療費の国際比較  

医療費比較(1995年)
初診料(円)虫垂炎(円)
日本195063000
韓国4050125800
アメリカ7864253511
イギリス6800不明
フランス2700不明
(出所)AIU調べ
技術料の日米比較(1994年)
日本アメリカ日/米
初診料2110*95600.2
再診料620*44100.1
検尿2508200.3
総コレステロール32016300.2
心電図150035700.4
胸部レントゲン144053000.3
冠動脈造影12000765000.2
PTCA1550002550000.6
心断層エコー8000333500.2
胃透視1076086701.2
注腸1076086701.2
虫垂切除68000972000.7
▼他の産業界の市場規模:

 一方、今や日本の土地などの総資産は3114兆円で国民医療費の100 倍、個人の預貯金総額は1200兆円、財政投融資は365 兆円で医療費の10倍、建設投資額・公共事業総額は85兆円、公的年金は33兆円、年間総レジャー費は72兆円、パチンコ産業は平成4年のデーターでも30兆円、自動車産業は平成2年でも42兆3707億円、外食産業も平成2年で26兆2131億円、医薬品産業は平成11年に6兆4000億円と言います。

 官僚のつかみ金とも各省庁の隠し財源とも言われる特別会計は283兆円と言います。

 また、日本の企業や政府・個人が海外に持つ資産から負債を差し引いた10年度末の対外純資産残高は133兆2730億円と世界最大の債権国であり、企業が医療保険料の支払いに耐えられなくなるという発言もむなしくなる数字で、国内総生産GDPに占める割合も26.9%と言われています。


 国民の健康を守る医療費がパチンコ産業と同じという数字を見て、厚生省の言うように日本の医療費が本当に高いのか、先進国レベルから見ても、これだけの実績を考えた場合、おかしいと思われませんでしょうか。  

   日本医師会は、国際水準からみた日本の医療費を488 兆5230億円(GDP)×9.2(国際レベル)=44兆9441億円と試算しています。  
   先進国レベルで言えば、この程度の医療費が日本には必要であると言うわけです。
   日本医師会総合政策研究機構は、医療提供に係る費用を項目ごとに客観的なデーターに基づいて推計(例えば医療産業の従事者320万3000人の人件費を17兆6653億円と推計)し、医療提供に係るこれら費用を賄うことができる金額が合理的な医療費とし、平成8年度ベースで、人件費17.7兆円、管理費11.2兆円、外部購入費用3.2兆円,再生産費用 8.2兆円、計40.3兆円と推計し、現実の医療費=国民医療費28.5兆円+自由診療等1.8兆円、合計30.3兆円で、差額10兆円としました。現実の医療費は、コスト部分、すなわち合理的医療費の人件費・管理費・外部購入費用の合計32兆1000億円すら賄いきれていない事実を指摘し、国公立病院に対する補助金・負担金の1兆円を加えてもコスト部分を賄いきれていないのが、今の医療の現実だとしています。

医療保険制度の簡単な流れ

 医療保険制度の歩みは4つの時期に分けられています。
 戦後の医療保険制度再建と昭和36年国民皆保険実現までの1期、サービス水準拡大と制度充実が図られ昭和48年老人医療無料化実施で頂点を迎える2期、オイルショック後経済低成長に伴い医療費抑制が試みられ老人医療費が急増した3期、平成不況の深刻化で介護保険・医療保険制度抜本改革論議がうず巻いた4期とされています。
 特に、昭和56年から60年にかけて、診療報酬の引き下げ、医療への国庫負担軽減、健康保険本人や老人医療の一部負担、病床規制などで医療費抑制を始め、58年2月から老人保健法による老人医療一部定額負担が始まり、老人適用診療報酬体系が採用され、福祉元年の老人への思いやりの医療政策は終わりを遂げたわけです。

  昭和60年から、老人の社会的入院が強調され、在宅医療促進が打ち出され、昭和63年には、老人の長期入院での診療報酬点数が減る制度が強化されました。
 厚生省は、社会的入院は入院の必要がない入院、すなわち悪と考えています。

 高知県のような少子老人県で、核家族や共働き家族の多い経済的に恵まれない地域で、在宅で病気の1つや2つは持っている高齢者の介護ができない場合、長期入院せざるを得ない事情があり得ます。

 厚生省は、これら経済的、家族的要因をかえりみず、在宅介護の十分な手だても作らずに、高齢者の長期入院が悪だと決めつけたわけです。

 しかし悪と言われた社会的入院も、老人医療抑制の効果で、かつて10万人と言われたのが、現在7万人に減少したと厚生省は推計しています。

 平成元年4月より消費税が導入されましたが、この当時は、まさに土地投機・株式過熱・バブル経済時代であり、平成2年頃までの日本経済は4年連続の好景気にもかかわらず、昭和56年に始まる薬価基準の引き下げが慣行化し、医療費抑制策で医療界・患者さんは圧迫され続けました。

 平成2年秋以降、日本経済成長は鈍化し始め、バブル崩壊が始まり、経済低成長のあおりを受け、益々、医療の抑制が図られました。
 平成7年厚生省白書は、高騰する医療費は高齢者医療が原因として、高齢者所得水準平均は若年者世帯とあまり差がなく、老人医療費の相当部分を若年世代が負担しており、世代間不公平を指摘し、老人は経済弱者ではなく、相当の負担は当然との見解を初めて出し、患者のコスト意識涵養のため、また薬剤コスト意識喚起のため患者負担を検討課題とするとの見解を打ち出しました。とうとう、厚生省の本音が出た白書でした。
 その後、老人の社会的入院の解消のため医療から介護を分離するために、社会保険方式による公的介護保険制度を考え、平成12年度からの開始が拙速的に決まりました。
 ★「介護保険制度」についての日本医師会の分かりやすいポスターが、日本医師会ホームページにあります。
    http://www.med.or.jp/kaigo/index.html

国民皆保険制度の崩壊の危機

平成7年以来今日まで、厚生省や政府与党は、財政困窮のなか、赤字の医療の支払側の保険者を救済するための検討事項を上げ、9年には「21世紀に向けた医療保険制度抜本改革」と称して、かつてない大きな改革を目指しています。
 その内容は、まさに国民皆保険の崩壊への道程を示しています。

 公的医療保険制度の役割を見直し、医療サービスの範囲を見直すとし、最低限以上のサービスは民間保険や特定療養費制度(患者さんが選定し、自己負担で行われる療養)の拡大をもくろんでいます。
 患者さんへの自己負担の引き上げという計画も見られます。

 医療費から薬剤費を分けて、その薬剤の患者負担を3〜5割という素案さえ出ています。

 更に、風邪などの軽い病気の医療費や室料や食事や医薬品の保険でのサービスの除外、すなわち自己負担で行うという意見さえ出ています。

 老人医療は現在、定額負担ですが、1〜2割の定率負担などの高齢者負担の引き上げなど、極めて厳しい改革メニューを提案しています。

 財政中心で国の責任や憲法の国民健康権を放棄したもので、患者・老人の負担に重きを置いた厳しい内容で、これまでの国民皆保険が崩壊し、保険医療と自己負担の混合診療を安易に認める方向で、貧富の差が医療に持ち込まれる恐れが出てきました。 

  一方、赤字を訴える健保連には、3兆2000億円もの内部留保の存在があることを、国民は知らされていません。健保組合財政をめぐっては、収入5兆6257億円(8年度)に対して、医療給付費は2兆9883億円に止まる一方、現金給付費2453億円、その他の保健事業など7366億円など、運営上見直すべき点も多く、それで赤字が解消されると言われています。更に組合健保は、病院診療所・訪問看護事業・老人保健施設という医療関連機関と直営保養所の経営という2大事業を運営していますが、医療機関等経営で255億円の赤字、保養所経営で365億円の赤字と、合計620億円の赤字を出しており(平成8年度)、これらの赤字は保険料で埋め合わされています。すなわち、組合健保が懸命に運営しても、医療機関が赤字であるという事は、先に話しました官公立病院の赤字と同じ理由が根底にあり、今の診療報酬水準では医療機関は赤字にならざるを得ないという事実を表しています。被保険者の方々へのこれら情報公開も必要だと思います。

 ★日本医師会総合研究所セミナー「組合健保の財政事情−本当のところはどうなんだ−」
      http://www.med.or.jp/nichinews/n110805j.html

 厚生省は、また、薬価基準を廃止して「日本型参照価格制=薬剤定価・給付基準額制」の導入をねらいましたが、これは患者さんの多くの署名、日本医師会、政治家の反対で中止となりました。同じ効き目の薬の保険適用基準額を決め、それ以内は定率負担、それ以上の価格は患者さんの自己負担にするという薬剤の二重負担案でした(患者負担増8000億円とも言われる)。

 更に、診療報酬については、患者さん個々により病態の微妙に異なる不確定な部分の多い医療に、診断群分類別の包括支払い方式を導入しようとしています。病気別に一定の入院期間を決め、支払う治療費の枠を決め、その枠内で医療を行うシステムで、アメリカでは医療費面でも非効率的であるなど色々の問題が言われています。定額制ですので、粗診・粗療(必要な診療・治療が行われない)をも生み出しています。本来、これは医療費抑制を目的とするのではなく、クリティカル・パスという医療の質向上を目的とすべきものだと思います。

  更に第4次医療法改定で、地域ごとの病院や診療所のベッド数の削減(約1割と言われています)、入院ベッドを急性期(短期)と慢性期(長期)医療用に分けて、急性期ベッド数を削減し、急性期医療の入院期間の上限を設け、3か月以内に短縮することなどを検討しています。
 この病床区分などの医療供給体制の再編成は、入院医療機関の大幅なリストラ計画で、病床数を減少させることで、医療費を抑制する考えが見え見えです。

 急性期医療は、一定期間は出来高払い、以後は定額、慢性期医療は定額を目指しています。急性・慢性・入院・外来を問わず、定額・包括払いを拡大する方向を強く打ち出しています。これも、厚生省の更なる医療費抑制が目的であることは、目にみえています。 
 
更に、厚生省は「急性期病床」の看護配置基準を、「入院患者4人に1人以上」を「入院患者2.5 人に1人以上」を医療審議会に提出しています。現在1年間に63400 人の看護婦が新卒で誕生、退職者等によって職を離れるのは51800人、年間では 11600人の増加に過ぎません。上の基準のためには、年間全国で68000人の看護婦が不足することになります。さらに平成12年度からの介護保険制度に係る看護婦の需要を加味すると、深刻な看護婦不足状況が生まれます。日本医師会では、看護婦数を増やして患者さんにより手厚い看護を提供すること自体に反対しているのではありません。看護婦養成の現状を無視した、実態を顧みない政策は医療現場に混乱をもたらし、結果的に患者さんの入院環境にも悪影響を及ぼすおそれが強いことを理由に、配置基準の引き上げに反対しています。看護婦養成の実態に合わせた、緩やかなシフトを求めています。ただでさえ財政的に厳しい看護婦養成機関への補助金カットを行いながら、このような実態を無視した政策には、いささか矛盾と憤りを感じざるを得ません。

 厚生省・支払側は特に在院(入院)日数の短縮にご執心ですが、結局、医療費抑制以外の理由は考えられません。
 平均在院日数が短ければ、それが機能のよい病院で、医療の質の向上だとの認識から一歩も抜け出せない状況があります。医療費が節約できるから良い病院という考え方です。

治療を受ける患者さん側や医師側から言えば、病気をゆっくり完全に治したい気持があるはずで、患者本位の立場から考えれば、在院日数の短縮が全てよいとは言えない、そんな低次元な考えでなく、患者の本当の治療における質と満足度の視点に考え方を改めよと言うのが、日本医師会の主張です。

 差額ベットはもとより、診察料や手技料について、保険給付とは無関係に医師による価格自由設定を認め、混合診療を完全に容認しています。

  患者さんは医療費の負担がどの位になるか見当もつかず、皆保険制度の「いつでも」「誰でも」「どこでも」「必要な時に」医療が受けられるという本質が崩壊してしまいます。

 9年1月国会で、橋本首相は、行政改革・財政改革・社会保障改革・経済改革・金融システム改革・教育改革の6つの改革断行を強調し、6月には財政構造改革5原則の具体的数値を出しました。
 しかし、いつの間にか、不況・景気回復優先として、6つの改革はどこかへふっ飛び、行政改革は骨抜き、財政構造改革への理念は見えません。国と地方合わせて600 兆円とも言われる借金は、少子化世代へ先送りする積もりでしょうか。

 一方で、国家統制の医療にのみ、9年9月より老人医療の自己負担増、健康保険本人の2割負担、薬剤一部定額負担が開始されました。平成7年の厚生白書の政策が実行されたわけです。
 高齢者の患者負担は15年前に比べて、外来が5倍、入院が3倍になったと言われます。

 消費税5%アップも野党の大きな反対もなく始まり、特別減税中止、医療費負担増で、国民は9兆円の負担を強いられました。

 薬剤一部定額負担も国民や日本医師会の反対で、早々と見直しを決定し、11年7月から老人には適用しないとするなど、全てがその場しのぎの小手先だけの政策で、長期的で国民のための政策とは思えません。

 今、薬剤給付の見直しについて、中央で検討されていますが、患者さんの薬剤一部負担について、日本医師会は廃止を主張していますが、保険者団体は診療・検査費と切り離した薬剤の患者定率負担を主張しています。

  日本医師会は、パチンコ産業と同レベルで抑制され、先進国でも日本の医療費が低過ぎることを問題視し、国民の健康を守るために低医療費政策からの脱却を図ることを求めています。

  日本医師会の医療改革のポイントとして、1.労働力人口の引き上げ2.医療保険・福祉制度の見直し3.医薬品・材料費の効率化4.医療情報の共有化の4つを上げ、一部財政試算をしています。
  65才以上の就労環境を整備し、労働力人口を引き上げると、2000年にはGDPが25兆円程度伸びて、税収が2兆7400億円増加。更に医薬品・材料費の効率化で1兆3000億円(薬剤費10%削減=9000億円、材料費40%削減=4000億円)が捻出でき、これを全て医療費に還元すると、合計4兆400 億円の財政効果を発揮することになり、「高齢化による医療費増大の止血作用になる」との改革案を10年8月に提案しています。

  また、税金1兆円を投入した場合の生活波及効果額は、社会保障が5兆4328億円、公共事業が2兆8091億円、雇用効果は社会保障が58万3162人、公共事業が20万6710人との総務庁の推計データーから、社会保障への財政投入は景気対策にも有効であるとしています。

慶応大学の田中教授も、先進国比で日本の医療費が低レベルにあり、公費中心の高齢者医療制度の創設と一般医療費の総枠の拡大を提唱されています。日本医師会も9割の公費投入を最終目標とする75才以上の高齢者医療制度の創設を提唱しています。

  ★「医療構造改革構想(第1版)」−平成9年5月−
     http://www.med.or.jp/nichikara/koso528.html

  ★「医療構造改革構想(第2版)」−平成9年7月−
     http://www.med.or.jp/nichikara/koso729.html
 
 国の財政が、ここまで逼迫したのは、バブルに踊り、バブル崩壊後の根本的・有効な対策に失敗した政府や官僚や金融業界などの責任であり、崩壊の危機にありながら、いまだに不良債権などの情報を隠し続け、責任ある役職の人間のみ生き残りを図り、末端の人材をリストラの名のもとに首を切る一方で、これら金融業界へは、救済策、金融危機防止と称して60兆円もの税金が投入されようとしています。

 その一方で、その失政の責任を、本来憲法に定められた国民の権利であり、国家の責任でもある社会保障の削減と国民の負担増にかぶせようとする政策が検討されています。
 国家財政や医療保険財政が困窮しているという理由で、国民、特に老人医療を抑制する政策が考えられています。

   このような医療・社会保障への締めつけだけが、不況に関係なく行われている現状は、国の国民の病気や健康に対する責務を放棄したものとしか考えられません。

先進国の中でも低い医療費で、世界一の長寿と乳児死亡率・周産期死亡率の低さなど世界に誇る医療を維持している日本の医療費が高いか低いか、官僚の発想だけでなく、国民みんなで考えて行くべきではないでしょうか。

  現在の高齢者・ 患者いじめにも似た政策や不十分な少子化対策などの社会保障全体に対する対策を、国民全てで考えてみてはいかがでしょうか。

 我々医師のみならず、国民も怒りの声を上げて欲しいと思います。  
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